
「投資の利回りは年5%が目安」「インデックスなら年7%」──投資を始めると、こういう数字をよく目にします。
でも、この「平均◯%」、そのまま信じると痛い目を見ることがあります。なぜなら、平均は「実際に自分が体験するリターン」とはかなり違うから。
去年20%増えた人もいれば、今年マイナス10%の人もいる。じゃあ「真ん中の人」は実際どれくらいのリターンなのか。この記事では、平均ではなく「分布」と「中央値」で、投資のリアルな利回りを金融庁の公式データから見ていきます。
まず、平均値(mean)の弱点から。
平均は、極端な値に引っ張られます。たとえば3人の投資家が、1年でそれぞれ「+40%」「+3%」「−10%」だったとします。平均は(40+3−10)÷3=+11%。でも、真ん中の人(中央値)は+3%です。
「平均+11%」と聞くと全員が儲かっているように感じますが、実際に+11%前後だった人は1人もいない。これが平均のトリック。1人の大勝ちが、全体の数字を押し上げてしまうのです。
投資の「平均リターン年◯%」も同じ。一部の好成績の年や銘柄が平均を引き上げているため、「自分が普通に体験するリターン」は平均より地味になりがちです。だからこそ、平均だけでなく「分布(どんなリターンが、どれくらいの頻度で出たか)」を見る必要があります。
ここで強力なデータを紹介します。金融庁が公表している、国内外の株式・債券に分散投資した場合のリターン分布です[^1]。1985年以降、毎月同額ずつ積立投資をしたと仮定して、保有期間ごとの運用結果を計算したものです。
結果はこうなりました。
| 保有期間 | 100万円が将来いくらになったか | 年率リターンの範囲 |
|---|---|---|
| 5年 | 72万円 〜 173万円 | 大きくばらつく(元本割れもあり) |
| 20年 | 185万円 〜 321万円 | 年率2〜8%に収斂(元本割れなし) |
ポイントは2つあります。
1つ目。短期(5年)はブレが激しい。 100万円が72万円に減ることもあれば、173万円に増えることもある。同じ投資方法でも、始めたタイミングで結果が大きく変わります。リターンがマイナス(元本割れ)になるケースも珍しくありませんでした[^1]。
2つ目。長期(20年)になると、ブレが一気に小さくなる。 100万円は最低でも185万円。年率に直すと2〜8%の範囲に収まり、1985年以降のデータでは、20年保有で元本割れした例は一度もありませんでした[^1]。
つまり、リターンは「平均何%か」より「どれだけの期間持つか」で景色が変わる。時間が、リターンのブレを削ってくれるのです。
では、20年保有の「中央値(真ん中)」はどのあたりなのか。金融庁の同じデータを、年率リターンの頻度で分解するとこうなります[^2]。
| 年率リターン | 出現頻度 |
|---|---|
| 2〜4% | 約40% |
| 4〜6% | 約50% |
| 6〜8% | 10%弱 |
リターンの約半分が年4〜6%のゾーンに集まっています。最頻値も中央値も、ここに位置すると考えられます。
ここで大事な読み方を。よく言われる「年7%」のような高めの数字は、米国株(S&P500)など特定の対象が好調だった期間を切り取った平均であることが多い。一方、国内外に分散したこのデータの現実的な“真ん中”は年4〜6%です。夢のような数字ではないけれど、銀行預金(年0.1%前後)とは比べものにならない。「地味だけど堅い」というのが、長期分散投資のリアルな中央値なのです。
「年4〜6%って本当に取れるの?」と思うかもしれません。これを20年以上の実績で示しているのが、私たちの公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。
GPIFの2001年度以降の運用実績は、年率4.2%(累積収益額は約155.5兆円、2024年度末時点)[^3]。世界中の株式と債券に分散し、長期で淡々と運用した結果がこの数字です。金融庁データの「真ん中ゾーン」とほぼ一致しているのが分かります。
巨大な資金を、派手な売買ではなく分散・長期で運用して年率4.2%。個人が真似すべきお手本が、ここにあります。
投資を始めると、SNSで「年初来+30%!」「1年で資産2倍」みたいな投稿が目に入ります。焦りますよね。でも、ここまで見たデータを思い出してください。
そういう報告の多くは、短期(数ヶ月〜数年)の、ブレの大きいゾーンの“当たり”です。金融庁データが示すように、5年程度なら+73%(173万円)もあれば−28%(72万円)もある。爆益報告は分布の右端、表に出てこない含み損は左端にいるだけ。SNSに「−20%でつらい」と投稿する人は少ないので、見えている世界は最初から上振れしています。
長期投資で本当に効くのは、爆益を狙うことではなく、ブレの大きい時期に売らずに持ち続けて、中央値(年4〜6%)を取りにいくこと。派手さはないけれど、これが20年の実績に裏打ちされた“勝ち方”です。
最後に、数字を見るうえでの前提を整理しておきます。
ひとつ、ここで紹介したのは「国内外の株式・債券に分散」した場合の実績です[^1]。株式100%ならリターンの中央値はもっと高くなり得ますが、その分ブレ(下落の深さ)も大きくなります。リターンとリスクは必ずセットです。
ふたつ、すべて過去の実績であり、将来を保証するものではありません[^1]。為替の変動もリターンを左右します。だからこそ「一発で当てる」ではなく、「時間をかけてブレを抑える」のが基本戦略になります。
みっつ、短期で必要なお金は投資に回さないこと。5年以内に使う予定のお金は、元本割れゾーン(72万〜100万円)に当たる可能性があります。当面使わないお金で、長く持つ。これが中央値を取りにいく大前提です。
Q. 投資の平均利回りはどのくらい?
→ よく「年5〜7%」と言われますが、平均は好成績に引っ張られた数字。国内外に分散した長期投資の現実的な“真ん中”は年4〜6%です(金融庁データ)。
Q. 元本割れの確率は?
→ 5年保有では元本割れも珍しくありませんが、1985年以降のデータでは20年保有で元本割れした例はゼロでした。
Q. 短期と長期で何が違う?
→ ブレ幅です。5年だと100万円が72万〜173万円とバラつきますが、20年だと185万〜321万円に収斂します。
Q. 高利回りを狙うべき?
→ 高リターンは高リスクとセット。長期・分散で「中央値(年4〜6%)を取りにいく」のが、実績に裏打ちされた堅い戦略です。
これから始める派 → まずは全世界株式や国内外に分散したインデックスファンドを1本。年4〜6%の“真ん中”を、20年かけて取りにいくイメージで。
高利回りを狙いたい派 → 株式比率を上げればリターンの中央値は上がりますが、下落も深くなります。暴落時に売らずに持てる範囲かを先に確かめましょう。
含み損が出てメンタルがしんどい派 → それは分布の“左側”の一時点にいるだけ。5年と20年でブレ方がまったく違うことを思い出してください。売らないことが最大の戦略です。
まず家計の余力を知りたい派 → 投資に回す前に、毎月いくらまでなら長く眠らせておけるかの把握から。Median Ofで同世代・同年収の家計と比べてみてください。
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