
数年前に話題になった「老後2000万円問題」。ぼんやり不安だけど、「実際、自分は足りてるの?」と正面から考えたことはあるでしょうか。60代のリアルな貯蓄データと照らし合わせて、確かめてみましょう。
先に結論をお伝えします。2025年時点で、60代の貯蓄の中央値は、二人以上世帯で1,400万円、単身世帯で300万円です[^1]。「2000万円」という目標に対して、中央値で見ると届いていない世帯がむしろ多数派――でも、これは必ずしも悲観すべき話ではありません。理由を順に説明します。
この数字のもとになったのは、2019年の金融審議会(市場ワーキング・グループ)の報告書です[^2]。そこでは、高齢夫婦の無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上)をモデルに、毎月およそ5万円の収支不足(この試算のもとになった2017年の家計調査の実額では約5.5万円)が生じ、これが続くと20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取り崩しが必要になると試算されました。
ここで押さえておきたいのは、2000万円は「誰にでも当てはまる絶対額」ではないということ。年金の受給額、毎月の支出、持ち家かどうかで、必要額は人によって大きく変わります。あくまで「ある前提での試算」なんです。
では実際、60代はどれくらい貯めているのか。金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査2025年」によると、こうです[^1]。
| 60代 | 平均値 | 中央値 |
|---|---|---|
| 二人以上世帯 | 2,683万円 | 1,400万円 |
| 単身世帯 | 1,364万円 | 300万円 |
二人以上世帯は平均2,683万円で、これだけ見ると「2000万円クリア」に見えます。でも中央値は1,400万円。真ん中の世帯は2000万円に届いていません。単身にいたっては中央値300万円で、平均(1,364万円)との差は約4.5倍。ここでも「一部の資産家が平均を押し上げる」構図がはっきり出ています。
つまり「平均では足りているように見えて、中央値で見ると多くの世帯が2000万円に届いていない」のが実態です。50代からの流れを振り返りたい人はこちらもどうぞ。
「中央値だと届いてない、やばい」と思うかもしれませんが、落ち着いてください。前述のとおり、2000万円は特定のモデルの試算値です。実際の家計調査でも、高齢無職世帯の毎月の収支不足は年によって変動しており、年金や働き方しだいで必要額は下がります。
大事なのは「2000万円」という数字そのものより、自分の場合の不足額を把握し、埋める手を打つことです。現実的な打ち手は3つあります。
まず、iDeCo・NISAで「運用しながら取り崩す」前提を作ること。老後も一括で使い切るのではなく、運用を続けながら少しずつ取り崩せば、資産の寿命は延びます。
次に、就労期間を延ばすこと。65歳以降も働いて収入を得れば、その分だけ取り崩しを遅らせられ、不足額はぐっと小さくなります。
そして、支出のダウンサイジング。住居や保険など固定費を老後仕様に見直せば、必要な取り崩し額そのものが減ります。
要点を整理します。
Q. 老後2000万円問題の2000万円はどこから来た数字?
2019年の金融審議会(市場ワーキング・グループ)の報告書です。高齢夫婦無職世帯で毎月約5万円(もとにした2017年家計調査の実額では約5.5万円)の収支不足が生じ、20年で約1,300万円・30年で約2,000万円の取り崩しが必要、という試算に基づきます。
Q. 60代の貯蓄、中央値で見ると2000万円に足りてる?
多くは足りていません。60代の貯蓄の中央値は二人以上世帯で1,400万円、単身世帯で300万円です。平均(二人以上2,683万円)は2000万円を超えますが、一部の資産家に引き上げられており、真ん中の世帯は届いていません。
Q. 2000万円に足りないと老後は詰み?
そんなことはありません。2000万円は特定モデルの試算で、年金・支出・働き方で必要額は変わります。iDeCo・NISAでの取り崩し運用、就労延長、固定費見直しで不足は埋められます。
本記事の貯蓄額は、金融経済教育推進機構(J-FLEC/旧・金融広報中央委員会)「家計の金融行動に関する世論調査2025年」(2025年12月公表)によるものです。「金融資産」は預貯金・保険・有価証券などを合計した額で、数値は「金融資産を保有していない世帯を含む」ベースです。「2000万円」は2019年の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の試算に基づく数字で、絶対的な必要額ではありません。
[^1]: 金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査2025年」。60歳代の金融資産保有額の中央値は、二人以上世帯1,400万円(平均2,683万円)、単身世帯300万円(平均1,364万円)。
[^2]: 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月)。高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上)で毎月約5万円の収支不足(報告書が典拠とした2017年の家計調査の実額では約5.5万円=54,519円)が生じ、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取り崩しが必要と試算。