
「定年後も働き続けられる」という話は、ここ数年ですっかり当たり前になりました。65歳までの雇用確保は義務化され、70歳までの就業機会確保も努力義務になっています。働く場所がなくなる心配は、以前より確実に小さくなりました。
ただし、働き続けられることと、それまでと同じ給料をもらえることは別の話です。60歳を境に、給料の水準は統計上はっきりと変わります。よく「再雇用になると給料は下がる」と言われますが、では具体的にいくら下がるのか。その実額を知っている人は、意外と多くありません。
先に結論をお伝えします。 厚生労働省の最新調査によると、給料(所定内給与額・月額)の中央値は60〜64歳で27.82万円、65〜69歳で23.95万円です[^1]。直前の55〜59歳は34.65万円でしたから、60代前半で月6.83万円(約20%)、60代後半では月10.70万円(約31%)下がる計算になります。これがいわゆる「60歳の崖」の実額です。
この記事では、この落差を煽らずに、事実として金額で確認します。数字がわかれば、それに合わせて準備することができるからです。
まずは数字から確認しましょう。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の年齢階級別データです[^1]。
金額は所定内給与額、つまり残業代とボーナス(賞与)を含まない月額です。手取りではなく額面である点にもご注意ください。
| 年齢 | 第1四分位 | 中位数(中央値) | 第3四分位 | 平均 |
|---|---|---|---|---|
| 55〜59歳 | 25.54万円 | 34.65万円 | 47.78万円 | 39.62万円 |
| 60〜64歳 | 22.31万円 | 27.82万円 | 37.40万円 | 32.93万円 |
| 65〜69歳 | 19.83万円 | 23.95万円 | 31.16万円 | 28.53万円 |
| 70歳〜 | 18.45万円 | 21.85万円 | 27.88万円 | 26.14万円 |
60〜64歳の真ん中にいる人は月27.82万円、65〜69歳では23.95万円、70歳以上では21.85万円。年齢が上がるほど、段階的に下がっていく形です。
なお統計は5歳刻みで公表されており、「60代全体の中央値」という数字は公表されていません。本記事でも60〜64歳と65〜69歳を分けて扱います。
50代までの推移と、そこがピークだったことについてはこちらで解説しています。
55〜59歳から60〜64歳への変化を、単独で取り出してみます。
| 項目 | 55〜59歳 | 60〜64歳 | 差 | 減少率 |
|---|---|---|---|---|
| 中位数 | 34.65万円 | 27.82万円 | −6.83万円 | −19.7% |
| 平均 | 39.62万円 | 32.93万円 | −6.69万円 | −16.9% |
中位数で月6.83万円、率にして約20%のダウンです。所定内給与の12か月分で単純計算すると、年間約82万円が減る計算になります。
82万円という金額の大きさは、比べてみるとわかりやすいかもしれません。年間の家賃1年分に近い額であったり、家族旅行を何度もできる額であったりします。それが毎年、継続的に減ります。
年齢階級別の数字は同じ人を追跡したものではないので、「あなたの給料が60歳で必ず2割下がる」という意味ではありません。ただ、これだけ明確な段差が全体の統計に現れているということは、再雇用時の処遇変更が広く行われている実態を映していると考えるのが自然です。
崖は一度で終わりません。65歳を越えるともう一段下がります。55〜59歳を起点にして並べてみます。
| 年齢 | 中位数 | 55〜59歳との差 | 減少率 | 年額での差(12か月換算) |
|---|---|---|---|---|
| 55〜59歳 | 34.65万円 | — | — | — |
| 60〜64歳 | 27.82万円 | −6.83万円 | −19.7% | 約82万円 |
| 65〜69歳 | 23.95万円 | −10.70万円 | −30.9% | 約128万円 |
| 70歳〜 | 21.85万円 | −12.80万円 | −36.9% | 約154万円 |
65〜69歳では、55〜59歳と比べて月10.70万円、約31%の減少です。年額に換算すると約128万円。60代の10年間で、給料の水準は3割以上変わることになります。
多くの場合、65歳以降は公的年金の受給が始まり、給料と年金の組み合わせで生活することになります。給料だけを見て「足りない」と考える必要はありませんが、給料という柱が細くなること自体は、事実として押さえておく価値があります。
四分位まで見ると、崖の形はもう少し立体的に見えてきます。
| 指標 | 55〜59歳 | 60〜64歳 | 差 | 減少率 |
|---|---|---|---|---|
| 第1四分位 | 25.54万円 | 22.31万円 | −3.23万円 | −12.6% |
| 中位数 | 34.65万円 | 27.82万円 | −6.83万円 | −19.7% |
| 第3四分位 | 47.78万円 | 37.40万円 | −10.38万円 | −21.7% |
第3四分位(上から4分の1の位置)の人は月10.38万円下がり、減少率も21.7%と最も大きくなっています。一方、第1四分位の人は3.23万円、12.6%の減少にとどまります。
金額でも率でも、上にいた人ほど大きく落ちるという結果です。50代後半に高い役職手当を得ていた人ほど、その手当がなくなったときの落差が大きいと考えれば納得しやすいでしょう。
このことは、50代のうちの生活水準の設定にそのまま関わってきます。50代後半の給料を前提に固定費を組んでいると、60代でそのギャップが一番大きく出るのは、まさに給料が高かった人なのです。
ここまでは残業代とボーナスを除いた月額でした。それらを含む年収で見ると、水準は変わりますが形は同じです。国税庁の調査による年齢階層別の平均給与です[^2]。
| 年齢 | 男女計 | 男 | 女 |
|---|---|---|---|
| 55〜59歳 | 572万円 | 735万円 | 356万円 |
| 60〜64歳 | 473万円 | 604万円 | 294万円 |
| 65〜69歳 | 370万円 | 472万円 | 240万円 |
男女計で見ると、55〜59歳の572万円から60〜64歳で473万円(−99万円)、65〜69歳で370万円(55〜59歳比で−202万円)となります。男性は735万円から472万円へ、263万円下がる計算です。
なお、これは平均であり中央値ではありません。全年齢を通した年収の中央値は約413万円と推計されます[^3]。65〜69歳の平均370万円という数字は、全年齢の年収中央値をすでに下回る水準にあたります。
年収の中央値と、自分が全体のどのあたりにいるのかは、こちらの記事にまとめています。
男女別の中位数も見ておきましょう[^1]。
| 年齢 | 男 | 女 | 男女差 |
|---|---|---|---|
| 55〜59歳 | 39.98万円 | 27.00万円 | 12.98万円 |
| 60〜64歳 | 30.13万円 | 23.92万円 | 6.21万円 |
| 65〜69歳 | 25.41万円 | 21.36万円 | 4.05万円 |
男性は55〜59歳の39.98万円から60〜64歳の30.13万円へ、月9.85万円(約25%)下落します。女性は27.00万円から23.92万円へ、月3.08万円(約11%)の下落です。
男女差は12.98万円から6.21万円へと縮まりますが、これは格差が改善したのではなく、男性側が大きく落ちたことによる縮小です。世帯単位で見れば、男性の下落分がそのまま世帯収入の減少として表れることになります。
世帯全体で見た高齢者世帯の収入の実態は、こちらで解説しています。
数字を並べてきましたが、大切なのは不安になることではなく、事前にわかっているものとして扱うことです。60歳での約20%減は、突然の事故ではなく、統計上ほぼ全員に共通して起きている既定路線です。予定されている変化には、準備ができます。
一つ目は、差額を先取りで貯めておくこと。 55〜59歳の34.65万円と60〜64歳の27.82万円の差、月6.83万円。この金額を50代のうちから積み立てに回しておけば、収入が下がる前に生活を「60代仕様」に慣らすことができます。収入が減ってから支出を削るより、はるかにやさしい順序です。
二つ目は、固定費の水準を60代に合わせておくこと。 住居費、保険料、通信費といった毎月自動的に出ていく費用は、収入が高い時期に一度点検しておくと効果が長続きします。上位にいた人ほど落差が大きいという事実を踏まえると、給料が高い方ほど点検の価値は大きくなります。
三つ目は、公的年金の受給見込みを確認しておくこと。 65歳以降は給料と年金の組み合わせになります。ねんきん定期便やねんきんネットで自分の見込み額を把握しておけば、給料が23.95万円(65〜69歳の中位数)になったときの家計が具体的に描けます。
50代の同年代がどれくらい貯めているのかは、こちらで確認できます。

「老後2000万円」という数字が何を指していたのかは、こちらで整理しています。

貯金・年収・給料の中央値をまとめて確認したいときは、こちらの早見表が便利です。自分に近い「等身大の基準」がひと目でわかります。

Q. 60代の給料の中央値はいくらですか? 所定内給与額(月額)の中央値は、60〜64歳で27.82万円、65〜69歳で23.95万円、70歳以上で21.85万円です。残業代とボーナスを含まない額面の月給にあたります。統計は5歳刻みの公表のため、「60代全体の中央値」という値は存在しません。
Q. 再雇用になると給料はどのくらい下がりますか? 中位数で見ると、55〜59歳の34.65万円から60〜64歳の27.82万円へ、月6.83万円(約20%)下がります。年間では約82万円の減少にあたります。ただしこれは年齢層ごとの比較であり、個人の給料が必ずこの通りに変わることを示すものではありません。
Q. 65歳を過ぎるとさらに下がりますか? はい。65〜69歳の中位数は23.95万円で、55〜59歳と比べると月10.70万円(約31%)低い水準です。年額に換算すると約128万円の差になります。多くの方はここから公的年金と組み合わせて生活することになります。
Q. 給料が高かった人ほど落差は大きいのですか? 統計上はそうなっています。60〜64歳では第3四分位が−10.38万円(−21.7%)と最も大きく下がり、第1四分位は−3.23万円(−12.6%)にとどまります。50代後半の高い給料を前提に固定費を組んでいる方ほど、事前の見直しが効いてきます。
本記事の月額の数値は、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表)による一般労働者の所定内給与額です。所定内給与額とは、決まって支給する現金給与額から時間外手当・休日手当などを差し引いた額で、残業代と賞与(ボーナス)を含みません。額面であり手取りでもありません。年収と直接比較できる数字ではない点にご注意ください。本文中で年額に換算している箇所は、所定内給与の12か月分としての単純計算であり、実際の年収とは異なります。
年齢階級別の中位数・四分位数は、同調査の統計表による産業計の値です。この統計は一般労働者(短時間労働者を除く)が対象のため、定年後に短時間勤務へ移った方は含まれません。実際には60歳以降に短時間勤務を選ぶ方が一定数いるため、その分も含めた実収入の変化は、本記事の数字とは異なる場合があります。また、年齢階級別の数値は同一の人を追跡した結果ではなく、ある時点における各年齢層の姿を比較したものです。したがって「60歳になると自分の給料が20%下がる」ことを直接証明するものではありませんが、再雇用時の処遇変更が広く行われている実態を反映した数字と考えられます。公表は5歳刻みのため、「60代」としてまとめた中央値は公表されておらず、本記事では60〜64歳と65〜69歳を分けて示しています。
年収に関する数値は国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によるもので、1年を通じて勤務した給与所得者が対象、賞与を含む年間の給与額です。年収の中央値は当サイトによる推計値であり、公表値ではありません。
[^1]: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」一般労働者の所定内給与額(月額、企業規模計10人以上)。所定内給与額は残業代・賞与を含まない。年齢階級別の分位数は、同調査の統計表(一般労働者・産業大分類 第3表「学歴、年齢階級、所定内給与額階級別労働者数及び所定内給与額の分布特性値」産業計)による。
[^2]: 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」(令和7年9月公表)。1年を通じて勤務した給与所得者5,136万人が対象。
[^3]: 本記事の年収の中央値は、同調査が公表する給与階級別の給与所得者数から、各階級内で人数が均等に分布すると仮定して当サイトが算出した推計値です。